耳鳴る/霜天
ラストオーダーは君に。
と言いながら僕らに。
手の届かないあれやこれや、
ただ内に抱えながら歩く姿は美しいのかどうか。
僕の中で耳鳴るしかない言葉が、君には大声で聞こえているらしい。
それが困ることなのか、どうか。
やがて、などと言って。
あの頃を景色に変えてしまえるのは、
僕らの特権のような、
拘束、のような。
思い出せない思い出ばかりが耳鳴る。
進みたい街角がいつの間にか後ろに傾いて、
かたちになれなかった家並が夕日に溶けていく。
エスカレーターには逆らえない。
運ばれていく塊、一日の揺らぎという揺らぎ。
君には聞こえるあの声が、いつもわずかに耳鳴る。
朝の景色が、
それだけで綺麗に見えてしまう。
通り過ぎていく物事に別れを告げる言葉を投げると、
世界はそれだけで傾いてしまう。
遠くなることも、霞む景色も。
ハロー、グッバイ。
それだけで暮れていく手の届く世界の内で膝を抱く。
いつも遠く、海の音が耳鳴る。
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