夏は泣かない/悠詩
 
夏は涙を流してくれない


瑞々しい草木の
しなやかな手に雫を落とす


食卓のある窓の
鈍色ガラスに雫を垂れる

自分たちの体温に気づいた時
季節は泣いてくれる


夏だって
三十六度を燃やしつづけているのに
どうして




家の奥
おじいちゃんが住んでいた部屋
暖かさが消えてしまった部屋
一年中涙は零れない



夏には
天国からおじいちゃんが
帰ってくるんだって

笑顔で迎えなければならないんだって


それでも悲しくて
我慢できなくなった時に
泣けるのは
夏じゃなく
わたしたちなんだ




夏は涙を流してくれない




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