tank/日向夕美
 
窓の無い浴室で右手にスポンジを握り締めて、かれこれ一時間が経過していた。
腕時計は靴下の横に置いて来たから、正確なことはわからないけれど。
あたしが集中できる時間なんてたかが知れている。
水垢の削り取られる様は、見飽き始めていたし、
奥のキッチンで油汚れやら焦げ付きと格闘しているであろう君を思ったら、
もうこれ以上うつむいているのは限界だった。
喉の奥がひりひりと痛む。
一昨日刺さった舌平目の骨が、
今更になって抗議しているのかもしれない。
そうしたらあの人も同罪なのだけれど
魚には優しい人だから、骨をつかえさせるなんて所業はきっと、やらかさなかったんだろう。
嗚呼、シャンパ
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