その存在/掘鮎涼子
僕には名前がない
目立たぬ場所で 限られたモノだけで生きている
踏まれて踏まれて 優しさに触れることもなく死んでいく
それでも生き残った者は 名も無い花を咲き誇らせ
いつかは死に往く
僕は名前をもらった
きっとたくさんの優しさに触れている少女に
毎日毎日 名付け親は僕のところへ来てくれた
それでもいつかは僕は死に往く
その時 彼女は泣いてくれるのだろうか?
最近 名付け親は来ない
飽きたのか それとも・・・
・・・元に戻っただけのことだ
何も哀しく思うことはない
今となっては忘れてしまった名
やがて少女のことも忘れてしまう・・・
僕は死に往くのだろう
死に対する恐怖はない
でも大切なことを忘れるのは恐い
だから名前の存在だけはずっとずっと忘れないでいよう
そう 僕には名前があったんだ・・・
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