樹海/円谷一
 
としてしまおうかと思っていたが君が無言で中へ入っていくのでついて行った


森の中には至る所で木漏れ日があってそこに足を浸すととても気持ちが良かった とても多くの自殺者を抱えている場所とは思えない 漠然としているが恐らくは永遠の午前中でいつも晴れているのだろう ありとあらゆる木々に首吊り死体がぶら下がっていて 中には白骨化して頭と胴体が切れてしまったものもあった 埃が酷かったが 蝶の舞う美しい場所で景色がぼやけて見えた 谷底には無数の死体が散乱していた それでも谷底を流れる川は美しく 川の音に小鳥の囀る声に蝶の羽音に耳を澄ませれば楽園に見えなくもなかった 君は岩に座ってこの世界全てを見渡したようだった 君に 死ぬの? と聞いてみると死ぬわけないじゃない と瞳の奥の森を見透かして言った おばあさんの渡してくれた握り飯とたくあんを腐乱した死体に囲まれながら食べた だんだん視界が霞んでいって握り飯を落として腐葉土に倒れた 辛うじて見える視界からは君が既に息を引き取っている姿が見えた にやりと笑ってこれでよかったんだという思いで目を閉じた
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