平凡な旋律/松本 卓也
夕暮れの歩道橋で見ている風景
行き交う人波が思い思いに辿る家路
西と東と北と南を結ぶ交差
自分の影と誰か達の影が
重なってはゆっくりと離れていく
言葉を交わす事さえ無い
デジタル時計は秒を数える事もなく
終わり行く今日の刻印さえ置いてけぼり
そよそよと耳元を通り過ぎる
風が口ずさむ歌声にあわせて
手拍子を叩いてみせようか
嘆きの詩を奏でてみたり
悲しみを手すりに並べてみたり
ただぼんやりと表情さえ見えぬ
誰か達の経路を見送ったりして
視界に飛び込む蜻蛉の群れ
なぜかしら絡み付いてくる蚊柱
騒音と排気ガスに包まれて
酒の匂いが少し混じる黄昏
頭だ
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