じっとりと雨に濡れた夜の草の匂い/円谷一
じっとりと雨に濡れた夜の草の匂いが中からしてきた 凍えた体でさらに冷たい取っ手を捻って入ってみると 鈴がカラン コロンと鳴って同時にいらっしゃい というしゃがれた声が聞こえてきた 中にはいるとまだ冬でもないのにストーブが物凄い勢いで燃えていて 店内は熱気が凄かった 奥には威圧的な無数の引き出しがあって しゃがれ声の本人の婆さんは小さい体を丸めながら草のようなものを引いていた ここは薬屋だよと婆さんは言って 再び草を引き始めた なんだか宮崎駿の世界に引き込まれたようで何と言っていいのか分からなかった でもじっとりと雨に濡れた夜の草の匂いはここからやって来たのだと思い 何かの縁だと思って ここで働かせて下さい! と頼んだ ここには何も仕事をすることは無いよ と婆さんは言ったがしつこく何度も懇願して ようやく承諾をもらった
現在 この薬屋で雑用係として一生懸命に働いている
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