岡山の妻/石原ユキオ
目を覚ますと、視野いっぱい夫の顔だった。「おはよう」と夫は言った。「おはよう」とヨリコも言った。のどが少し痛むのは、裸で寝てしまったからだろう。夫はきちんと背広を着て、髪を櫛目も鮮やかな七三に整えて、枕元にチョンと正座し、ヨリコの顔をのぞき込んでいた。
ヨリコは寝転がったまま、枕元の携帯電話に手を伸ばした。ハイビスカスの造花と、サンリオのキャラクターと、それからビーズ飾りのどっさりとついたストラップを引っぱって、たぐりよせる。サブディスプレイで時間を見る。午前六時三分。
「今日仕事早いん?」
「いいや、いつも通り。早く目が覚めてしまったから、早く支度したんだ」
「よう寝れなんだん?」
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