感傷的な夏より?連弾する午後の夢/前田ふむふむ
この草のにおいを意識し始めたのは、
いつからだろうか。
翳る当為が、こおりのように漂い、
透きとおる幻視画のような混濁のなかで、
きみどりいろに塗された、切りたつ海岸線が浮ぶ。
冬の呼吸器をつけた病棟の空に、
放物線を描いて、
記憶の皮を剥いている季節は、
死を、無機質な雪のように、降り積もらせた。
ふるえる声が、
吐きだされる蛍光灯の熱、明度をあびて、
繊毛のように、散りばめた血液の
書架に溶けていく。
追いかける霞んだ視線は、祖父、父の跡を、
どこまでも、暗闇のふちを歩いた。
あのときも、草のにおいは、
わたしの朽ち果てるばかりの止まった肉体を、
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