鳳仙花/蒸発王
 
鳳仙花

揺れる


『鳳仙花』


右目の古傷を開かれた
ぷつぷつ と
肉の裂ける音と共に
かさぶたを剥がされ
瞼の底へ

彼の残した右目が

入り込んだ


右眼球を
傘の骨が貫いたのは
7つの頃だった

夏に咲く
鳳仙花の花びらをむしって
マニュキアごっこをして遊んでいた時
不注意で
彼の持った日傘の骨が
瞼と角膜を切り離したのだ

彼は泣きながら謝って
自分の目も抉り出そうとしたから
必死で止めた
指先が
滴った鮮血で真っ赤になって

その赤さが

今までやった
どの鳳仙花で染めるより
一番きれいだった


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