東京の愛人/大覚アキラ
 

飛ぶ夢を見る
涎を垂らす
隣に座ったOLの肩にもたれる

「おれも誰かの愛人になりたいんです」

そんなことを口走る夢を見て
目が覚めると
満員電車の中で
誰かがひそひそと喋っている
大阪弁で

「東京には
 呪いがかかっとる気がするわ

 日本中の
 いや世界中のどこにも
 こんなに都市伝説が似合う街はあらへんで」

こいつの
愛人を犯してやりたい

そんな想像をしながら
アメ横の薄汚れた屋台で
ジョッキのホッピーをあおる
雨に滲むネオンを眺めていると

「私は誰かの愛人になりたいんです」

誰かが小さな声で
独り言みたいに呟くのが聴こえたので
隣に座っている若い水商売風の女に

「きみも誰かの愛人になりたいんですか」

と訊ねたおれの声は
電車が高架を走り抜けていく騒音に
掻き消された

ビニール傘は
どこかに置き忘れてきてしまった
そういえば
メールの返事は来ないままだ

東京に来ると
いつも雨降りでうんざりする
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