利害の一致/Itha
 
小説家はふと思った
自分が考えたこの話を
油絵にできたらどんなにいいだろう
現実にはない豊かな空間
無限に広がる表現の自由
小説家は羽ペンは持つが絵筆を持ったことは無かった
絵にできたら読み書きのできない兄弟たちに
伝えたい話もあったのに
小説家は眉間にしわをよせて
コップの水をペンで混ぜた

画家はふと思った
自分の描いたこの絵を
写真にできたらどんなにいいだろう
自分の画力ではまかなえない厚み
確かに存在する自然の神秘
画家は絵の具を買うのにお金を使いカメラは買えなかった
写真にできたら足の不自由な親に
見せたい景色があったのに
画家は小さいため息をついて
カンバスに絵筆をぶつけた

写真家はふと思った
自分の撮ったこの景色を
文字にできたらどんなにいいだろう
見えないからこそ読む者の心を掻きたてる
活字という限られた世界で表現される神秘
写真家は学校には通えなかった
文字にできたら盲の姉に
聞かせたい世界があったのに
写真家はそっと目を瞑り
レンズをそっと指で押した
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