樹/チグトセ
 
はじまりは一本の大きな幹でした
その幹がどんなに大きくたって
みんなみんなその場所にいたから
誰かが声を発すれば
その声は確実な伝言ゲームで
紛うことなく誰かのもとに届けられました

やがていつか
幹は枝分かれていって
一本が二本に 二本が四本に 四本が八本になり
僕たちもそれぞれの枝に乗って
枝わかれていきました
そうやって枝わかれながらいろいろな者になりました
君と僕も別々の者になっていきました
物事の表面積は増え
いろいろなことが
そのうちはっきりしなくなっていきました
声は
いつしか複雑に反響するようになり
なかなかうまく 君のもとに届きません


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