ひとつの終わり/楠木理沙
愛してる
こんな陳腐な言葉をお互いに言い合えていた時が
実は一番幸せだったのかも知れないね
今じゃもう 小説家や詩人や偉人やらの名言が詰め込まれた分厚い本を
蛍光ペン片手に必死になってめくってる具合なのさ
愛してる そんな手垢にまみれた言葉を言う気にはなれないんだ
愛してるを 愛してると言わずに表現することばかりを考えているよ
だけどさ そんな陳腐な言葉だけでよかった 二人だけの世界があったんだよ
なんだか 随分遠い話のように思えてしまうけれど
今じゃもう 愛してるって言うことが
二人の間に広がっている溝の深さを確認する以外に 何の意味も持たないんだ
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