「ななしの子」/あゆの ひより
も強い姉様ばかりを 可愛がられました
弱い子はいらないとでもおっしゃるように
父様は ななしの子をみとえてはくれませんでした
ななしの子には父様がおつけになった お美しい名がおありでしたが
父様の口から その名が呼ばれたのを わたしはみたことがありません
ある日のこと
ななしの子は
名前が重い とおしゃいました
周りの人がわたしと姉様を比べるから
同じ名字だと 比べられてしまって
「わたしはわたし」と言えなくなってしまうから…と
ななしの子は おっしゃったのです
たいそう辛かったことでしょう
「 名前なんていらない 」
それがわたしの聞いた最初で最後の ななしの子がまらした本音でした
そしてその日が
わたしがななしの子を名前で呼んだ 最後の日でした
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