青年と紙袋/肉食のすずめ
 
街頭にて老けた青年は紙袋を両手にぶら下げていた
今日買うはずだったモノをどうしても思い出せない
記憶力の低下を彼は極端に恐れていた
忘れたモノの数も忘れていた
誰のための買い物かも
記憶力の低下を彼は極端に恐れていた

赤い日差す坂道で
老けた青年は遅れてなどいなかった
彼以外の者も遅れてなどいなかった
或る者は速く或る者は遅く
しかし皆一様に抜かれていった
赤い日指す坂道は
長い影が揺れるように
全ての距離を測れなかった

光陰矢のごとし
と誰かが言った
無論光は何よりも遅く
誰にも何にも何も伝えなかった

ささやかな
爆発が
彼の立つ排水溝近くで起こった
紙袋の底が抜け
丸やら四角やらが
地表を見当違いに転がり始める
一瞥をくれる人々の間を青年は低い姿勢で走り始めた
露わな立体とともに流れ出す
それも
待ち望んでいたかのように
もう何も怖くない
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