X回目の/への自慰/楠木理沙
 
度も僕の名前を叫びながら

いつも盗み見ていた乳房をわしづかみにして
知りもしない膣の感覚を描いて
歯を食いしばりながら速度を上げ続けた
どこかで聞いたような雨音が 部屋の中に響いていた

僕はとっくに気づいていた 
自分で慰めるという行為は 慰めにはならないことを
ひとりでは慰めることすら叶わないことを

ふたりでいる孤独とひとりの孤独
前者は後者を凌ぐと誰かが言っていた
ふたつはひとつになれない それを思い知ることになるからだと
そんなことはどうでもいい
ひとりでは ふたりでいる孤独がどんなものかさえ分かりようもないのだから

ティッシュから溢れて親指の付け根にまで飛び散ったむなしさを
そのままボクサーパンツになすりつけた
一瞬の解放と 即座に展開される包囲網
分かりきっていた自己嫌悪に苛立ち 握りつぶすように右手に力を入れた

痛みが快感への下ごしらえに成り下がるのは時間の問題だった
僕はまだ壁から耳を離せずに じっと二回戦を待ち続けている 

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