その男/草野大悟
 
瑞宝章をもらった。

ふん
と、言いながら
まんざらでもなさそうな男の横で
彼女の母親は
勲章には全く関心なし
と、男を誉めることもなかった。


男はよく自転車に乗って
買い物に行った。
その帰りに自動車に跳ねられたころから
体調を崩し
入退院を繰り返すようになった。

ペット検査で
肺癌が発見され
男は
仕事で組合と闘ってきた
以上の精力を傾け
それと闘った。

母親は
その闘いが
一年で終わることを
医者から聞かされていた。

男は病院に見舞う度に
痩せていった。
おれは、そんな男を
正視できなかった。




男が白くなった
次の日、おれは、
父親と
ほぼ同時期に入院した
妻に

親父はね
まだ、病院で
闘っているんだよ
ずっと、ずっと
闘っているんだよ

と、笑いながら
嘘をついた。






















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