その男/草野大悟
その男とは
高校三年の時
はじめて出会った。
自転車に乗り現れた男は
前駕籠から魚を無造作に取り出し
黙って彼女の前に置き
ぎょろりと目玉を
おれの方へ向けると
また自転車に乗って
どこかへ行ってしまった。
無愛想を絵に描いたような男だった。
その次に男とあった時
おれは大学一年になっていた。
男がよく行くパチンコ屋で
隣に座って打ち出したおれを一瞥し
ふん、と言ったきり
何も言わず玉を打ち続けていた。
夜中の二時過ぎに
彼女の家の塀を乗り越え
玄関を叩いたおれに一言
見苦しい、入れ
と、玄関を開けてくれた。
家の
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