彼女の弾痕/楢山孝介
 

口にも出しちゃって
そんなことはないよもう傷は癒えてるから大丈夫と
彼女はそんな顔をしていて
実際そんなことを言った

事が終わった後は彼女の戦争の話を聞いたり
僕は僕で僕の戦争の話をしたけれど
傷一つない僕の話は
傷だらけの彼女の話からはかけ離れていて
語り合うほどに
彼女との距離は離れてしまった
彼女を撃ったどこかの兵士や
こんな事態を作り出した元凶の戦争のことを
恨もうとしたけれどうまく恨めなくて
「とりあえず」で傷を舐めた自分のことを
いつまでも恨んで悔やんで罵っていた

次の日も彼女はぎこちない様子で
歩いたり
ものを書いたり
笑ったり
それからまだ暗い顔をしていた僕に向かって
怒ったり
していた
戻る   Point(9)