夏を弔うための三重奏/佐野権太
 
一、蝉しぐれ

白い病の影がおりて
夏の命、際立つ


すり硝子の花瓶に
溢れていたはずの笑顔
シーツに残された
僅かな起伏は
生きていた
あなたの

散らばった
レモン色の、花びら
握りこんだ、手のひら
柔らかく潰れてゆく
遥かな痛み

いくつもの小さな叫びが
窓辺に集まり
増幅されてゆく


堅くしがみついた
抜け殻の
背中から破れた
蝉、しぐれ




二、蛍

湿った夏草の細い弧が
宵やみに溶けてゆく
曲線がいつも切ないのは
消えゆくあとさきが
危ういからでしょうか

青や透明のビーズを紡いで
お守りだ、と
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