病床で/円谷一
 
の前の橋の上などだ
どうしてそんな辺鄙な場所を思い出すのか分からない
時計の針が喧しく聞こえる
読みかけの文庫本を寝たまま読む
ぜんぜん頭に入らなくてすぐに止めてしまう
虚しい時間が蝸牛のようにゆっくり進む
腹が空いてきた
喉も渇いてきた
室温のせいで温くなったゼリー状の飲み物を一気に飲み干す
少しは気分も落ち着いてきた
突然ばんえい競馬のことがふと頭をよぎった
猛吹雪の中砂場を全力で走り抜けるばん馬達
激しい息づかいと極寒の中滴れる汗
踊る肉体が目に焼き付く
再び目を瞑って眠ろうとした
淀む生温い暗闇が熱い眼球を冷やす
しばらく意識がその下にあったが
気が付かない内に眠ってしまった
ピンク色の不条理な夢を見ていても
視線の位置はずっと固定されたままだった
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