甘く危険な香り(妖精篇)/渡 ひろこ
 
そこは新宿の雑居ビルが立ち並ぶ一角の
地下にある場末のバーだった
薄汚れた階段を下りていった記憶はあるが
すでにかなり酔っていたので
なぜこんな場所で飲んでいるのかわからなかった


その女に出逢ったのは
僕が迷いこんだそんな
ラビリンスの終着駅のような
薄暗い酒場だった


「ねぇ、恍惚と高揚感の虹色の精神世界に入ってみたいって思わない?」


そう言ってなまめかしく笑い
反応を楽しむかのように
僕の顔をじっと見る


(そんなこと出来るわけないだろう・・・)


いぶかしげな眼差しの僕に


「騙されたと思ってこれ試してみない?」


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