麦の穂をゆらす風/いねむり猫
 
を多い隠すほどの豊かさ
美しい鳥達のさえずりの中で
その家は焼かれるのだ

母親が我が子を抱いて寝かしつけた
その木陰で 成長したその子は友によって頭を打ち抜かれる

小川に足を浸しながら 木苺をほおばった
その川岸に 切り裂かれた美しいあの娘の髪が流れ着く

なぜ わたしたちは この季節の風を全身に浴びて
山や森が差し出してくれる贈り物を受け取らないのだ

なぜ この美しい麦の穂がゆれる丹精を込めた畑を
愛する子供達がお互いに憎みあう戦場に変えるのだ

なぜ まだ骨格も定まらない 
無難な微笑方も学んでいない青年たちが
恐怖と混乱に頬を染めながら 
やさしかった叔父や叔母を撃たなければならないのか

それでも人々は 自分の生きる理由を
憎しみと狂信の言葉で語り

それでも 麦の穂は風にゆれる


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