音の世界/大小島
 
夜中三時に目が覚めて
となりのうちの車が帰ってくる音をきく。
太陽がまだ見えない地平線の裏側で
音をやっぱりたてている。その音をきく。
カーラジオがかかっている。
古い曲がかかっている。ぼくが知るはずもない曲なのに
でもぼくは聞いたことがある。
隣人はなかなか車からおりてこない。
そういえばぼくの部屋の下にある
仏間からは
なにか音がきこえるだろうか?
ちいさな虫たちが動くその足音。
ぼくの心臓の鼓動。
街路樹の葉っぱが成長するその音すらも
聞こえてくるような気がする。
それなのに
隣人がなぜ車から降りてこないのか
なぜ窓を開けて音楽をならしているのか?
僕には耳がある。
それなのになぜ誰も語ってはくれないのか?
音の世界でなっている音。声。声の世界に震えない
ぼくの鼓膜。

もう寝ようと布団をかける。
その布団の中で綿がゆっくりぼくの汗を吸う。
その音。

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