盆ノ夜 /服部 剛
 
浮かんでいた

一人遅れて食べる夕餉の時間 
母ちゃんの出汁(だし)の滲みた 
煮物を箸でつついていると 
箪笥の黒い引き出しにしまった 
アルバムを思い出し 
「 佳日 」と書かれた厚い表紙を開くと 
一枚の大きい白黒写真が貼られ
僕より若いお爺ちゃんは仏の顔で
花嫁姿の婆ちゃんの横に立っている 

振り返れば
親父が運転する車の前に
飛び出したバイクに乗る人を跳ねた日も 
親父の勤める会社が倒産した時も 
いつも紙一重のところで
助かって来た我が家 

今日も
なんでもない一日を過ごした夜に一人 
( お爺ちゃんありがとう・・・ )
と心に呟き 
母ちゃんの
煮物の味をかみしめる 




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