寂しい午後/円谷一
ばらく進んでいくと 自分の小説に出てきそうな農業国の景色が見えてきた デジャヴかと思ったがとても素晴らしい眺めだった 小説の世界の風と匂いを感じながらまた小説を書いてみたいと思った 書けたらよかった
その先は長い長い坂が続いていた 坂を上りきると きらきらと煌めく海が見えた 海は原子単位で蠢いていて 海の彼方の光の線が歪んでいて 巨大なタコやイカが飛び出してきそうだ
太陽が薄い雲間から顔を出して 額をギラギラと照り付けていた
寂しい午後なんて何処かに行ったようだった 自転車を加速させて下り道を一直線に森の中へ突き進んでいくと 春 夏 秋 冬の季節を越えていった 動物達が視界の端々に映っていた 森の濃密な匂いが奥深くへ入っていくうちに立ち込めてきた このまま闇の奥へ溶け込んでいくか それとも引き返すかという二者択一の心の選択に迫られていた 意識が無くなると姿も自転車も消えていた 森の一部になったのかそれとも風になったのか自分でも分からない でもきっと幸せになれたんだろうと思う
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