いなくなった子供らの話/吉田ぐんじょう
 


その女の子は
押し入れを
殊の外おそれていたそうです

戸を開けるときの音が
怪物の唸り声に聞こえると
そう言って
決して自分からは
押し入れに近付こうともしませんでした

ところがある日
女の子はある些細な悪戯をしたが為
戒めとして
押し入れにほうり込まれてしまいました
嫌だ嫌だ
と泣く声は
まるで豪雨のように
そこいら中に響いていましたが

しばらく経ってから
押し入れの戸が開けられると
女の子はいなくなっていたそうです

折り重なる布団のその奥の闇からは
まだ笑い声のような風がかすかに吹いていて
それどころか
なにかわからない生き
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