いなくなった子供らの話/吉田ぐんじょう
・
その女の子は
押し入れを
殊の外おそれていたそうです
戸を開けるときの音が
怪物の唸り声に聞こえると
そう言って
決して自分からは
押し入れに近付こうともしませんでした
ところがある日
女の子はある些細な悪戯をしたが為
戒めとして
押し入れにほうり込まれてしまいました
嫌だ嫌だ
と泣く声は
まるで豪雨のように
そこいら中に響いていましたが
しばらく経ってから
押し入れの戸が開けられると
女の子はいなくなっていたそうです
折り重なる布団のその奥の闇からは
まだ笑い声のような風がかすかに吹いていて
それどころか
なにかわからない生き
[次のページ]
戻る 編 削 Point(13)