髪長小町/蒸発王
 




ちょうど
其の夜は雪が降っていて
たいそうな冷え込みで吹雪き
夜が明けた
百一日目
男は路で冷たくなっておりました

手には

百日目の歌



姫様は 静かに

静かに炭を擦り込むと
百編目の返歌を書いて
恋しい と
書き終えた瞬間

やはり

静かに
涙を流しました


激しい涙では無く
ただ
水無月に降る長雨のような
長い長い
涙でした


涙を流すうちに

御髪は伸びるどころか
するすると縮み始め
やがて
髪を無くした姫様は

いかに嘘吹こうと


もう
御髪が伸びることはございませんでした




最後に掴んだ
 本当 を
 百編の歌 を

口ずさみながら


尼に身をやつし
菩提の旅に出かける後ろ姿が




私が


姫君を見た最後でございます







『髪長小町』

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