てのひら/和歌こゆみ
 
捨てられた子犬のような心のまま
静まりかえったホームで君を待ってた
かわいいとか嬉しいとか
そういう言葉をくれる代わりに
すねた目をしてみせる人だったから
気付いた時にはもう全部
あなたの手に納められていたの


あの人が暮らすこの街を
幾度も通りすぎる車窓からながめて
やっと降り立ったあの日
まだあなたは遠かったね
とても とても遠くて
とても



本当はあのとき
君から手をとってほしかったんだよ
私から腕を回しても
あなたはかすかに微笑むばかりで。


いつか見た朝焼けが
夢に落ちない夜を終わらせて
今朝もあなたを思い出してる
一度も私に触れなかったあの人
どんなに一人が辛い夜でも
優しく抱かれる日を信じていたのに
その細い身体で
この息が途切れてしまうまで



私からつないだてのひら
握り返してくれただけで泣きそうだったよ
『オヤスミ』のまえ
甘えた私を受け入れてくれた



私が


守ってあげたかったのに
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