Soundness/はらだまさる
黒になる。全てが黒になって沈んでゆく。ぼくらは恐怖ではなく、惑星に同化する幸福感に包まれる。呼吸が面倒に感じた。夜光虫というものを体感したのもこのときがはじめてだった。赤潮だとも知らずに、はしゃいだ。越前岬での夜間潜水、十年も前になる話だ。水平線にぶつかって砕け散る夕陽の音だけが、写真に残っている。
夏、ぼくらはブルーベリーを頬張って左手で千歳緑の喘ぐ点描画を描く。天然酵母のパンを焼く。全粒粉、胡桃、レーズン、玄米粉、イチジク、クコの実、煎り大豆。窯に入れて、大量にスチームする。アントシアニンで染まるまで、ぼくの世界は平面だった。焼き上がったばかりのパンは、パチパチと鳴く。
山鳥と
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