逃げ水/草野春心
めずらしく早く目覚めた僕のからだを
新鮮な蒸し暑さがつつむ
起き上がりカーテンを開けると
朝焼けが感傷的に笑っている
四階のベランダから道路を見下ろし
高校生のジョギングを眺める
コンクリートが昨日の雨を呼吸して
どこか動物的な匂いを発している
また夏が来る
増えはじめた蝉の声を浴びながら
テーブルの上に言葉を重ねていくと
逃げ水のような君の姿が現れる
思い出がそこからやって来て
そうしてそこで止まってしまう
冷蔵庫の音が心に虚無を教えてくれる
テレビが今日は晴れると言っている
君の思い出を背中に隠して
また夏が来る
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