くちづけ/水在らあらあ
 

ほら 羽ばたかないよ あいつだよ
一回も羽ばたかないで 
ただ風を知って
世界を 見ている

でも 風を知るのと
風であるのとは違って
君が風なら 
おれは風を知っている
世界が詩なら
おれは詩人だ

世界もなにもないのよ
私もいないの
あるのは 潮騒と カモメと
足をくすぐる 草花だけよ
二つのからだの熱と
匂いと

風に乗らずに
ただ風であるということ
波乗りじゃなく
ただ波であるということ
詩人じゃなくて
ただ詩であるということが
どんなに本当で 
どんなに素直で
どんなに恐ろしい愛だとしても

その愛で 
くちづけて
その詩に 
くちづけさせて 

それで死んでしまってもいい
それで死んでしまってもいい
そうしたら最後に
詩になるから




凍える光の中で
降り注ぐ言葉のなかで

虹色の
静寂の中で











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