抱き枕のラブソング/楠木理沙
 
しにされたテレビから流れる砂嵐が すべてを飲み込んでほしかったんだ



ある日 君は突然押入れを開けて僕を引っ張り出すと 一緒にベッドに飛び込こみ 強く抱きしめた
こんなに強く抱きしめられたのは 初めてだった
僕に顔を押し付け 嗚咽交じりの声を上げ やがて悲しい寝息を立てた 
君は 一晩中僕を抱きしめた 久しぶりの 君のぬくもり



ああ 僕は君の一番じゃない これまでも これからも 
気づかないふりをしていたけれど もう それも今日でおしまいだ
僕ではないということ 僕ではだめだということ



だけど いまの君を抱きしめているのは 抱きしめられるのは 世界中で僕だけなんだ
それが どうしようもなく誇りに思えて 苦しくて 涙が止まらないんだよ



きっと もうすぐ目覚める君は しみだらけになった僕を洗濯機へ投げ込むだろう
いつものように 計量カップいっぱいに入れた 多すぎる洗剤と一緒に
だけど 今日だけはそれも悪くないって思えるんだ
洗い流してくれよ 君の悲しみの跡を そして 僕の悲しみの跡を

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