ミハエルポートレイト階段/カンチェルスキス
 





 白い錠剤とロシアで買った中古カメラがテレビの上に載っている。
 もうすでにおれは嘘をついてしまった。白い錠剤もないし、ロシアで買った中古カメラもない。ロシアが昔ソ連だった頃、おれはソーニャという美しい女性と恋に落ちて、瀬戸大橋をランボルギーニですっ飛ばした。嘘をつかないでいるというのは、観覧車のてっぺんまできて、実は自分高所恐怖症です、と告白するのと同じくらいに困難なことだ。告白するなら、観覧車に乗る前の前の日にでも言っておけ、ということだ。その日はちょうど不燃物ゴミを出す日だ。
 階段について考えてみる。
 階段というのはどこにでもあるものだ。階段って聞いて思い出す場
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