桃の缶詰/a/t
 
ちいさいころ熱が出ると

お母さんはよく桃の缶詰を開けてくれた

白くてやわらかい桃はもちろん

スプーンで飲ませてくれる甘いシロップも

冷たくてとてもおいしかった


お母さんはたいてい夕方になると

「どう?」とおでこに手を当てに来た

その手は晩ごはんの支度の最中だから

いつもちょっと濡れていて

そしてひんやりと冷たかった


真夜中でも起きてきて

枕に新しい氷を入れ

寝汗で濡れたパジャマを替えてくれた


いま熱でうなっているちいさな娘に

あたしがしてることは

どうだろう

考えてみるとお母さんのマネばかり
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