夜と雨/木立 悟
雨が地を圧(お)し
音はまたたき
山から空へ照り返す
空白の主人(あるじ)が
空白を置いて去り
空白は 家になる
雨のための唱があり
夜をしずくのかたちにひらき
あやすように照らしている
主人のいない庭をすぎ
わずかに残る道をめぐり
風は空白のかけらを抄う
家には窓があり
しずくの流れたあとがあり
影がひとり住んでいる
音は昇り また降りて
緑も水も触れない土を
冠のようにかがやかせてゆく
唱を抱いて雨は去る
家も庭も消えてゆく
影は主人を待ちつづけている
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