切り裂きジャック/草野大悟
三日月の夜に
ひんやりと矜持を研ぐ奴がいる。
これまでに何十人もの肉を削いできた
彼のただ一つのアイテムは
哀願と絶叫によって切れ味を増し
涙と血によって絶対に近づく。
彼は切り裂く
しわしわの豆腐を、
彼は抉る
ふたつの闇を、
切って切って 切り刻む
一世紀を切り刻む。
ところが今日
あちこちに散乱していたそいつらは
忽然とそそり立ち 濡れ
ぽろぽろとジュニアを産み出す。
切り刻むそばから産まれる
無数のよちよち歩きの刃が
彼を心底蒼白にする。
ジャックよ
あわれ滑稽の恐怖よ
おまえにはもはや
己を食い尽くす術しか
残されていないのか。
足元から矜持が凍ってゆく。
彼が氷となる。
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