父/円谷一
 
 父が死んだ時 私は少しも悲しまなかった それは幼児期に虐待を受けた
 トラウマなのかもしれない
 私にとって 父親とは 暴力以外で存在
 できなかった
 全身が暴力の固まりで
 それは私に無言の圧迫感を押し付けられて 窒息死しそうだった
 やっと全てが終わったと胸の奥に
 平和が訪れていた
 いつも母親に暴力を振るいそれでも
 満足せず我が子の一人っ子の
 娘までも虐待した
 仕事場では温厚な父が家に帰った途端
 性格が変わって酒乱のまま
 鉄は熱いうちに打つと言ったように
 感情が冷静さを取り戻すまでそれは続いた 荒れ果てた家の内部を見て
 冷静になった父は一人静
[次のページ]
戻る   Point(7)