噛ませ犬/楠木理沙
 
さだけを確保した

拳を握り締めてると いつの頃かも分からない 過ぎ去った日々が駆け巡る
ベルトをひたすら夢想した ベルトをひたすら夢想した 

足を引きずり支えられ リングを降りたそのときに 声の限りに叫んださ
不意に叫んだこの俺に 客は一瞬目を向けた

ここではないんだここではない 何度思ったことだろう 何度願ったことだろう
だけど受け取る封筒に 笑っちまってる俺がいる

ここではないんだここではない 俺には何かが出来るんだ 俺しか出来ない何事か
最後に力を振り絞り もう一度叫んでやったんだ

誰も見てはいなかった 視線はリングの日本人 両腕高く挙げていた
もう声なんか出やしない 叫ぶことすら出来やしない

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