あめ/仲本いすら
 


その状態のまま、
少しだけ庭を散歩して
雨が長く続けばいいなと
傘をくるりと回す

紫陽花の色が溶けて
みるみると庭一面にパステルが広がり
ほんの少しだけ水溜りを踏んだら

じんわり

「そろそろお時間ではございませんか」
私の声など聞こえてなどいないような
そんな顔をして

蛙の鳴くほうへと
歩いていってしまわれた



雨が長く続けばいいなと
あの方はいう

白くなりそこねたベンチに腰掛けて
誰かに話すふうに優しい目をしている
正面からサヨナラバスがクラクションを鳴らす
「行かなくても大丈夫ですか」と私は肩に手をやるのだけど
まるで死んでいたかのように
動かない



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