輪唱/銀猫
北の方角では
青年が祈っている
切実なその願いは
祈り、というより叫びのように
わたしのたましいに遠くから響いてくる
薄いカーテンの向こうでは
洗濯物が揺れている
梅雨の晴れ間と聞いて
それ、とばかりに広げたシーツが緩くはためいている
そのベランダの手摺りの先では
日増しに緑を濃くした杉の古木が
一身に陽射しを集め
根元ではたんぽぽの綿毛が
天使の羽根を風にふうわり乗せている
風の行くさきは西か南か
それとも高く偏西風を目指してゆくのか
それは風も知らぬことだろう
すこしかなしいことだ
風に吹かれて
誰かの長い髪が
さらさらと弧を描いている
その髪の先はつややかに
きっと北の方角を指している
北の方角では
相変わらず青年が
麻ひもに通した虹のような珠を握り締めて
痛いように祈っている
わたしには
わたしには
見えもしないその祈りが
たましいを揺らして仕方が無い
たんぽぽの綿毛が
洗い立てのシーツに舞い降りてきた
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