妄想世界朗読旅行・ニース〜フランス編(南フランス鉄道)/馬野ミキ
知れない
俺は窓から上半身を乗り出して「お前には才能なんかねーぞ!」と日本語で怒鳴った
卵はさっきと同じ姿勢のまま列車が行き過ぎるのを待っていた
俺の声は風にかき消されていた
俺はその風に頬を当てた-
それから俺はゆっくりと座席に腰を降ろした
俺の声は相席のお婆ちゃんに届いた程度であった
お婆ちゃんは俺を見てニッコリと笑った
しわの中に乙女の瞳を見つけた
俺は68年のカベルネを一回転させてから
お婆ちゃんにニッコリを返した
22人目の女-
それからパリに着くまで二人でボトルを七本開けた。
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