センチメンタルがやってくる/nm6
 
バラバラで、それは上下の問題ではない。波打つとか押し寄せるとかではなく、スッと入ってくるそれは曖昧な塊だけれどちぎれた雲ともすこし違って、ピントはあっている。ところでピントに気づくのはふとした時で、たとえばいま目の前の肩の細い女性のトートに垂れ下がるヘッドフォンとその隙間から眠る男子中学生の襟とを行き来するセンチメンタル、それだ。そしてぼくらの、車内のひとはいつも通り。満員で潰されてもガラガラで眠っていても朝でも夜でもいつも通りで、いつも通りというのはつまり状態ではなく関心の問題だ。乗客はどろんとしている。ぼくにはセンチメンタルがやってくる。


緊張と弛緩をくりかえすエチュード。
センチ
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