僕らは僕らを生きるんだ。/もののあはれ
 
たいつか会えるかもしれないね
もう会えないのかもしれないね

君は君を生きるんだね
僕は僕を生きるんだね

開いたドアの向こう側で待っている
まぶしい夏の光が舞っているんだ

だから僕はいくよ
僕は僕を生きるんだ

     *

『あの、すいません。』

「はい?」

     *

振り向いた瞳の向こう側で待っていた
まぶしい君の姿が舞っていたんだ

さあ一緒にいこう
僕らは僕らを生きるんだ!

     *

『この電車北赤羽は止まりますか?』

「い、いや快速だから止まらないですよ。」

『そうですか、どうもありがとうございました!』

     *

記憶の片隅にすら残っていない僕を残して彼女は去った

僕らは僕らを生きるんだ!
そんな魂の叫びを飲み込む僕を車内に残したままに


乗り過ごした車窓から差し込むまぶしい夏の光だけが
いつまでも僕の瞳の中で美しく舞っていた





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