琥珀色の悲恋/渡 ひろこ
さっきから訳もなくティースプーンでカップの中を掻き混ぜてしまう
そんなにしたら紅茶が冷めてしまうのがわかっているのに
渦を巻く琥珀色の液体をじっと見つめる
「黙っていたらわからないじゃないか」
頭の上を語気を強めたアナタの声が通り過ぎる
押し黙ってしまうのは
言葉にすると何かが崩れてしまいそうだから
目の前にいるアナタがもっと遠くになりそうだから
金色のティースプーンをソーサーの上にカチャリと音をたてて置く
それが合図のようにアナタが言った
「俺 もう疲れたよ」
ワタシはティースプーンから指を離さぬまま
予期せぬ言葉に思わず顔を上げる
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