フライング山下/楢山孝介
 
ていると
「間違いでしたっす」と
街角で突然大男に謝られた
それは外国で鼻血出しながらバンジージャンプしてるはずの山下だった
「組違い賞で十万円だったっす。
 借金返しておしまいっす」
そう言って封筒を押し付けてきた
そういえば山下がパチスロで大負けするたびに
僕が少しずつ貸していた金は
積もり積もって十万円になっていたのだ

ちょっとウルっと来た
十万円でも仕事辞める理由にはなったんじゃないか
僕への借りなんて忘れて逃げ出せたんじゃないか
「明日からまた来いよな」
「大丈夫っすかね」
「全然問題ないって」
うちに寄ってお茶でも飲んでいけと誘ったけれど
山下は「もう眠いっす」と言って帰っていった
封筒の中身を確認すると九万円しかなかった
夜道を去っていく山下の大きな背中に
僕はドロップキックしたかった
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