たぶんトロイメライ/朽木 裕
 
私はもう生きることを放棄してしまう気がして。たとえ吐くのだとしても食べる。「おいしい」って反吐が出そうな笑みで食べる。

(なんだ、私は迷子のままじゃないか)

はやく見付けてよ、なんて嘯いてみる。繋がれた手を解くのはいつだって私なのに。結局昏倒もせず、世界も終わらずに私は車を走らせている。切ったばかりの髪で鉄塔と淋しい空のある場所へ。なんとなく心が虚無で、死にたかったり生きたかったりアンヴィバレンツ。鉄塔の群れを眺めながら世界が水に浸かる様をゆっくりゆっくり想像する。水没妄想。私の夢ではいつも何かが水にとろけていくのだ。弱く薄く世界に存在する意思。強くありたいと願いながらも弱さを楯に嘆きながら生きる私はとても薄情で惰性にまみれている。だから夢では全てを無に帰すかのように水没していくのだろう。虹の約束を破った人間。誰ひとりのせないノアの箱舟。水に侵食された世界。それはたぶんトロイメライ。
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