父の日/北乃ゆき
 


★そして父が死んで10年、父が特別扱いをした3人と話をしていると、時々70歳の父を知っているのだな、と感じる事がある。父の年齢は61歳で終わってしまったけれど、父が特別扱いをした3人の中では一緒に年老いている。人は別な人間の記憶の中で生き続けるというけれど、私はそれを目の当たりにする事ができた。これは実はとても幸運な事で、早く死んだ父が早く別れたなりに私に残してくれた最高のプレゼントだと思ってありがたく受け取っています。

★私には70歳の父は見えない。私が知っているのは41から61歳で世を去った父だけです。最近はその記憶さえ薄らいでいる。だから、似ているな、と思う人に出会っても、その人の年齢が自分の知らない父の年齢だったりするとすぐにぴんとこない。それでいいのだと思います。私は父の作った輪の傍観者であり、その輪の中に入れては貰ったけれど、そこから出て今度は自分の輪を作らなければならない。私は私で私の輪の形を作らなければならないので、父の存在にも父の輪の形にも拘る必要はないと思っています。
戻る   Point(6)