自分の名前を失くすはなし/Utakata
 
いうことを知る
海まで行って
海流に乗って
きっと他の大陸のどこかに流れ着くのだろうということを知る
それを見つけ出すための自分の旅が
今この瞬間から始まりうるのだということを思う

(でも
 何かをするには犠牲がつきものだけれど
 犠牲をはらうために何かをするのは
 馬鹿げている
 もちろん)

それを川に向かって投げるふりをする
きっぱりと
全力で
海へと届くように投げるふりをする

投げるふりをしおわった後で
手の中に当たり前のように残っているそれを見て
軽く握ったりなんかして
もう一度川の向こうのほうを見る
再びそれをポケットの中に入れて
家へ帰ろうと橋に背を向ける

なんで笑ってるのー。
べつにー。
そう呟いて、僕はもう一度、すこしだけ笑う。

自分の名前を失くしてみる
ときどき
こっそりと
こっそりと。

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